持続可能な循環型の未来を京都から創造する実践型事業開発プログラム「サーキュラービジネスデザインスクール京都(CBDSK)」。2026年8月6日(木)、京都商工会議所にて今年度のラーニングプログラム・ベーシック講座第1回『サーキュラーエコノミー基礎講義』が開催された。
昨年度の成果と学びを踏まえ、より実践的・包括的な支援体制へと進化した2年目の本プログラム。当日は京都市内の志ある事業者、共創を支えるメンターやパートナー企業、行政関係者が一堂に会し、会場は終始熱気に包まれた。
本記事では、サーキュラーエコノミーの世界潮流から、日本の地域で培われた循環の知恵「Edonomy®(エドノミー)」の解釈まで、初回の学びと示唆を凝縮してお届けする。
加藤 佑(アーティクル株式会社 代表取締役)
2015年にハーチ株式会社(現アーティクル株式会社)を創業。社会をもっとよくする世界のアイデアマガジン「IDEAS FOR GOOD」、循環経済専門メディア「Circular Economy Hub」などのデジタルメディアを運営するほか、横浜の循環都市移行プラットフォーム「Circular Yokohama」、東京都における「CIRCULAR STARTUP TOKYO」など、企業・自治体・教育機関との連携により循環経済推進に従事。2023年4月にB Corp認証を取得。東京大学教育学部卒。
北林 功(COS KYOTO株式会社 代表取締役/一般社団法人DESIGN KYOTO代表理事)
奈良県生まれ。物心ついた頃より人生のテーマを「美しい自然環境の中、人が笑顔で過ごせる社会の構築」と据えて活動。大学時代は、公共政策論の研究や内閣府国際青年交流事業フィンランド派遣団に参加。大阪ガス(京都)でのエネルギー設備営業、グロービス(東京)での人材育成コンサルタントを経て、同志社大学大学院ビジネス研究科にて「文化ビジネス」を研究。2013年にCOS KYOTO株式会社を設立し、地域の風土・歴史が育んできた叡智を紐解き、インプットと体験を通じて、現代社会にアップデートして活かしていく「文化ビジネスコーディネート」を軸に地域創生・人材育成・文化交流の事業を展開。2016年よりDESIGN WEEK KYOTOを主宰。[https://cos-kyoto.com/edonomy]
京都から描く、循環型ビジネスの未来
「サーキュラービジネスデザインスクール京都(CBDSK)」は、単なる知識習得のスクールではない。「Decode Culture, Design Future(文化をほどき、未来をデザインする)」をコンセプトに、京都の文化や自然に古くから根付く循環型の叡智を紐解きながら、フィールドワーク、伝統文化との交差、プロトタイピングを通じた共創型の事業開発を目指すプログラムである。
今年度は、昨年度培われたエコシステムやネットワークを基盤に、供給サイド(事業開発・実装)と需要サイド(市民啓発)の両面からアプローチする包括的な支援体制へとパワーアップして始動した。その記念すべき第一回目の本講座は、多様な専門性を持つメンター陣やパートナー企業が集い、受講生との間で新たな共創の芽生えを感じさせるキックオフとなった。
講義①「なぜサーキュラーエコノミーが必要か──世界潮流と京都への示唆」
前半は、アーティクル株式会社 代表の加藤佑が登壇。環境制約と資源制約という2つの世界的課題を起点に、最新の政策動向やビジネスモデルについて深掘りした。
初めに強調したのが、プラネタリーバウンダリーとデカップリングの要請についてだ。気候変動や化学物質の流出など、地球の限界を示す「プラネタリーバウンダリー」は、定義されている9つの領域のうちすでに7つで限界を超過している。人口増加に伴い2060年までに資源利用量が2倍になると試算される中、求められるのが「デカップリング(分離)」の概念である。

デカップリングを表す図
加藤氏「人間にとって健全なシステムを維持できる上限を超えつつある今、資源の枯渇は紛争や安全保障のリスクに直結します。私たちが解くべきは、人間の幸福(ウェルビーイング)や経済活動を伸びやかに維持しながらも、資源使用量や環境負荷を物理的に切り離す『デカップリング』の追求です。そのための有力な手段こそが、サーキュラーエコノミーなのです。
従来の3Rのような『出てしまったゴミをどうするか』という発想ではなく、最初の製品・サービス設計(デザイン)の段階から廃棄物や汚染を出さない仕組みを組み込むという思想の転換が求められています」

加藤佑氏
こうした背景から、EUのエコデザイン規則(ESPR)やデジタル製品パスポート(DPP)、再生材利用の義務化(PPWR・ELV規則など)といった法的規制がグローバルで急速に進んでいる。加藤氏は、日本企業への影響も不可避であると語った。
さらに講義では、製品を所有させずサービスとして提供し、1本の傘から10万円以上の売上を生み出す「アイカサ」、複合機のリース構造を活かしたリマニュファクチャリングを確立する「リコー」、使い捨て割り箸を回収・再製造するフランチャイズモデルを展開する「ChopValue」、食器を砕いて肥料に変える「NIKKO」など、先進的なビジネスモデルが紹介された。

割り箸から作る家具のマイクロファクトリー・フランチャイズを行う「ChopValue」
そして、加藤氏が講義の最後で特に強調したのが「社会関係資本(地域の信頼やコミュニティ)」と循環性の相関関係である。
加藤氏「イタリアや中国の研究データでも示されていますが、社会関係資本(信頼や参加意識)が高い地域ほど、リサイクル率が高くなる傾向があります。回収コストや分別品質というサーキュラーエコノミー最大の課題は、地域コミュニティの『関係性』に投資することで解決できる可能性があるのです。
京都市は建物の高さ制限や山に囲まれた地形ゆえに、物理的な規模拡張が難しいという制約を持ちます。しかし、拡大できないからこそ、身近な関係性を大切にし、質の高いウェルビーイングを育んできた歴史があります。この京都固有の空間的・歴史的制約と社会関係資本こそが、これからの循環型社会を築く最大の強みになります」

会場の様子
講義②「文化と循環が生み出す付加価値──京都から考えるサーキュラーエコノミーの未来」
後半は、COS KYOTO株式会社 代表取締役であり「Edonomy®」研究家の北林功氏が登壇。単なる効率化としてのリサイクルを超えた、本質的な構造改革と価値変容についての講義が行われた。
北林氏は初めに、環境配慮型素材への置き換えや、水平リサイクルのような資源循環を進めても、根底にある「大量生産・大量消費」の社会構造が変わらなければ根本的解決にならないと提起した。表面的な手法(氷山の上層)ではなく、価値観の変容に目を向ける必要があるのだ。
北林氏「今日、私が和服風の服を着ているのは、単に文化の講義だからではありません。風を吸い込んで自転車に乗っても一番涼しいという『純粋な機能的知恵』があるからです。地域の風土や歴史の中で培われた知恵には、極めて合理的な理由があります。
皆さんに一番お伝えしたいのは、リサイクル率を高めることは単なる『手段』に過ぎないということです。『目的』は、自然の恵みの範囲内で、人々が心豊かに暮らせる社会を実現することにあります。循環という『手段』の氷山の下にある、人々の祈りや文化、美意識という『根幹』を見つめ直さなければなりません」

北林功氏
だからこそ今、「江戸時代に培われた知恵」を学ぶべきであると北林氏は続ける。鎖国下の江戸時代、約3300万人の人口が国内資源を中心に暮らしていた。これは原始的な生活ではなく、世界初の先物取引市場を生むなど高度に洗練された文明社会であった。北林氏はこの循環構造を現代に翻訳・実装する概念として「EDONOMY®」を提唱している。
北林氏「第一に、地域の自然の恵みの範囲内で資源を循環させることです。壬生(みぶ)などの染色や伏見の清酒が豊かな水環境とともに育まれてきたように、京都には昔から自然の限界をわきまえ、無駄を出さない『しまつの心』が根付いています。
第二に、人の交流と信頼資本(社会関係資本)の醸成です。祇園祭の山鉾町を支えるコミュニティや、祭り、講(※)、結といった地域の助け合い、さらには老舗の暖簾分け文化に至るまで、資源を巡らせるための人間関係の基盤が高度にデザインされていました。
そして第三に、美しい景観や文化的価値を未来へ継承する姿勢です。京町家や100年・1000年と続く老舗企業の経営には、いま生きているこの瞬間を大切にしながら未来を想う『中今(なかいま)』の思想が息づいています」
これらは決して特別な「意識の高さ」から行われていたのではなく、限られた制約下で人々が心地よく暮らすための合理的かつ自然な仕組みとして機能していたのである。
※ 講(こう):同じ信仰や目的を持つ人々が形成する集まりや組織、およびその行事

Edonomy®の根幹となるサーキュラーリング

着物は生産ロスが少なく修理しやすい設計で、かつては最後まで使い切っていた。
続けて北林氏は、高い利益率の追求と「資源の節約」の関係性について語った。
北林氏「営業利益率を上げることはがめつく儲けることではなく、より少ない資源からより多くの価値を生み出す行為であり、環境的にも極めてサステナブルなのです。日本の製造業の営業利益率が数%にとどまる一方、ハイブランドのエルメスは高い付加価値によって40%近い利益率を誇ります。同じキャッシュを得るために、低利益率のビジネスは数千倍の資源を使わなければならず、実は地球環境に負荷をかけているとも言えます。
だからこそ、単なるスペック(機能的価値)ではなく、物語や文化的背景、人の心がときめく体験的・情緒的価値を高めること。誰かの『推し』と言われるような深い価値を創出し、その一方で「推さない」人もいるという覚悟を持つこと。それが、資源使用量を抑えながら高い付加価値を生み出す道です」
さらに講義では、私たちが普段手にしている「もの」の原点に対する問い直しがなされた。普段意識することの少ない資源の背景に目を向けることが、サーキュラーデザインの出発点となる。
北林氏「私たちが普段使っているモノの原材料がどこから来ているのか、その背景を知ることからすべてが始まります。例えば、このビルに使われているコンクリートのセメントは滋賀県の伊吹山から切り出された石灰岩で作られており、東京のビル群であれば埼玉県の武甲山から運ばれています。都市の発展の陰で山が削られている現実にまず想いを馳せ、資源の源泉(テロワール)に感謝を捧げる姿勢こそが、循環型ビジネスの根幹にあるべきものです。
また、日本の文化には役目を終えた道具を慈しむ『眼鏡供養』や『針供養』のような風習があります。モノを作り出すことだけでなく、使い終わった後にどのように感謝を込めて区切りをつけるかという『終わりのUXデザイン(終焉の体験設計)』をあらかじめプロダクトやサービスのライフサイクルに組み込んでおくことが、これからの循環型社会においてきわめて重要な視点となります」

奈良県高取町の壺阪寺にある「めがね供養観音」
ディスカッション&質疑応答:手段の先にある「目指すべき未来」
2つの講義後の質疑応答・対話セッションでは、会場から「経済性と持続可能性の両立」や「格差とサーキュラーエコノミー」に関する本質的な問いが投げかけられた。
Q. お金のある人だけが環境に良いものを選択できる現状をどう見るか?
北林氏「江戸時代は、お金を持っていることと社会的な権威や敬意が必ずしも紐づいていませんでした。共同作業に参加し、地域のルールを守らなければ、お金があっても水や薪すら手に入らなかったのです。
つまり、『お金さえ払えば何でも手に入る』という現在の価値観こそが、むしろ異常なのかもしれません。お金という単一の尺度だけで価値を測るのではなく、助け合いや信頼関係というコミュニティの基盤に立ち返ること。社会関係資本を中心とした価値観へシフトしていくことが第一歩になります」
Q. サーキュラービジネスは収益化に時間がかかるが、どう乗り越えるべきか?
加藤氏「ビジネスモデル転換の初期にある『谷』を乗り越えるには、行政の補助金や志を共にする金融機関との連携が欠かせません。そして何より、サーキュラーエコノミーへの取り組みを進めていくと、財務諸表には表れない『社会関係資本(強固な人間関係や仲間)』が指数関数的に増えていきます。その関係性こそが、長期的には事業の耐久性と収益性をもたらしてくれます」
北林氏「何を基準にして事業や人生の『成功』や『豊かさ』と捉えるかという、自身の価値観の軸を一度捉え直すことが大切です。売上高や企業規模といった既存の指標だけで成果を測ろうとすると、収益化までの期間が苦しく感じられるかもしれません。
しかし、地域の多様な人々と深く関わり合い、互いに助け合える人間関係や信頼といった関係性を積み上げていくこと自体が、人生における大きな豊かさになります。単に経済的な数字や効率のみを循環させるのではなく、人間的な関わりや幸せの価値観そのものを循環させていく視点こそが、この領域で事業を続けていくための本質的な力となります」

ディスカッションの様子
これからの展望
講義・ディスカッションの後は、循環型の「京ジェラート(八方良菓)」や小川珈琲、リユース容器の「MEGLOO」を活用したネットワーキングが行われ、参加者同士の活発な対話が続いた。
本プログラムは今後、第2回「京都の伝統・文化 × サーキュラーデザインワークショップ」、第3回「京都市内フィールドワーク」を経て、秋からのアドバンスド講座・成果発表会(Demo Day)へと展開していく。
循環を単なる手法にとどめず、いかに人々を魅了する美しい文化や心豊かな事業へと落とし込んでいくか──京都という土地から生み出される新たなイノベーションに、今後も注目したい。

会場の様子

八方良菓の「京ジェラート」。メンターの一人でもあるサーキュラーエコノミー研究家の安居昭博氏がプロデュースしている。

集合写真
Circular Business Design School Kyotoとは
京都には1200年の歴史の中で育まれた「しまつのこころ」や循環型の暮らし、モノづくり文化など、時代を超えて輝き続ける資産がある。気候変動や生物多様性の保全など地球規模の課題が深刻化する中で求められる循環型の未来を実現するには、これらの叡智を現代に活かし、未来につなぐ創造力が必要だ。そこで、IDEAS FOR GOODを運営するハーチ株式会社では、京都というまちに根付く循環型の叡智と最先端のサーキュラーエコノミー知見に基づく未来志向を掛け合わせることで、ともに欲しい未来を描き、実現するための学習プログラムを2025年10月より開始。「Decode Culture, Design Future 叡智をほどき、革新をしつらえる」──伝統の先に続く循環型の未来を、京都から。
ウェブサイト:https://cbdskyoto.jp/